日本には覚醒剤や大麻など違法薬物がたくさんあり、年間1万4千人くらいが検挙されています。
覚醒剤は減りつつあるけど、よりお手軽イメージの大麻は急激に検挙数が増えてます。
合法な処方薬や市販薬に依存する人もとても多く、これも大きな問題です。
私は仕事で薬物やアルコール、ギャンブルなど、依存症関係の本や資料を読むことが多く、依存症の人とも話す機会があります。
何かに依存しているご本人もつらいけど、ご家族など周りの人もとてもつらい、それが依存症という病です。
この記事では薬物依存症について知りたい人に向けて、薬物依存症がわかる本をご紹介しています。
専門家ではなく、依存で苦しむご本人やご家族、支援を始めたばかりの方が分かりやすい本を選びました^_^
『依存症について知りたい』『依存症についての本を探している』という方は、ぜひ、参考にしてください。
順次、加筆予定です^_^
基本書・『薬物依存症』松本俊彦
『薬物依存とはどのような病気なのか』というところから、現在、日本で問題になっている薬物についての解説、薬物依存症支援の現状、これからの方向性と、薬物依存についての基礎知識が網羅されています。
著者の松本俊彦先生は、国立精神・神経医療研究センターの精神科の先生で、だいぶ以前から、認知行動療法を基盤とした独自の薬物依存症の治療に取り組まれてます。
まず、最初に薬物依存症についての全体像を知りたいのだったら、この1冊です。
違法薬物だけでなく、睡眠薬や抗不安薬といった処方薬についての記述もあるので、普通にクリニックで処方される薬(高齢の私の母もたまに処方されるような一般的な薬)の中にも、使い方を誤ると依存症に足を踏み入れる危ないものがあるのんですね。
薬物依存症とは『自分でやめよう、あるいは控えようと決意するにもかかわらず、何度も失敗してしまい、もはや薬物の使用が自分の意志ではコントロールできない状態』というのがよく分かる1冊です。
そして依存症になった人は、『なぜ依存しなければいけなかったか』ということについても分かりやすく書かれており、依存した人を孤立させない社会に向けた提言もなされ、いろいろ考えさせられます。
新書版なのですが、あなどるなかれ。
かなり内容は濃くておススメです。
薬物依存症のリアル
薬物依存症となった人、治療を受けた当事者が語った本です。
ご紹介する3冊は、いずれも名のある人の体験談で、逮捕されたときはかなりなニュースになりました。
また、高知東生さん、清原和博さん、塚本堅一さんは、3人とも先にご紹介した松本先生の患者さんで、同じ自助グループに参加されています。
読んだ感想としては、いずれもとても率直に書かれているなということ。
当たり前ですが、3人に共通するところもあり、違うところもありで、依存に苦しむ人の姿と彼らを取り巻く問題が、イメージできると思います。
『生き直す』高知東生
俳優の高知東生さんが、半年以上かけて書かれた本です。
本当に、書きにくいことも、すごく正直に書かれていると思います。
高知さんが自分の人生を幼い頃の生活から振り返り、薬物との出会い、逮捕、そして薬物依存症からの回復過程などを、正直に綴られています。
読んでいて一種、感動するところもありました。
女優の高島礼子さんと結婚されていた当時、『愛人・薬物・ラブホテル』という最悪のスリーカードで逮捕された事件は、かなりなニュースになり、私もよく覚えています。
そして、高知さんが俳優として復帰されたときいたときも、正直、『なぜ、また目立つ仕事を?』とちょっとモヤモヤとしたものを感じましたが、この本を読んで素直に応援する気持ちになれました。
海外だと普通に依存から回復した人たちが、俳優やミュージシャンとして活躍していますもんね。
この本のみどころは、なんといっても高知さんの生きてきた道筋を語る過程です。
かなり分厚く描かれています。
これは自助グループで使われることが多い『12ステッププログラム』のステップ4『自分自身の棚卸し』と呼ばれる作業にあたります。
これまでの人生を振り返り、『いまの自分がどういうことで形成されてきたのか』を理解する過程です。
ここで自分自身の過去と向き合い、その上で依存症となった要因を突き止めていくことになります。
そのあたりの過程は、とても読みごたえがあるので、ぜひ、実際に読んでみて下さい。
過去を振り返るというのは、依存症になったことを生い立ちのせいにする、ということではなく、依存症になった自分の考え方、感じ方の原因をつきとめる作業です。
薬物依存症に完治はありませんが、回復できる、回復し続けられる病気ではあります。
高知さんの回復の過程も、まだまだ続きます。もしかしたら途中、再使用もあるかもしれません。
しかし、そうしたことも含めて、薬物使用をした人を社会的に抹殺してしまうことなく、再び受け入れる社会に向かっていけたらなと思います。
『薬物依存症』清原和博
いわずとしれた、野球界のかつての大スター清原和博さんの語り下ろしです。
覚醒剤取締法違反で逮捕された清原さんが、薬物依存の怖さや、うつ病との戦い、家族とのつながりについて語っています。
2008年の引退後、清原さんには数々のスキャンダルがあり、その後、覚醒剤使用で逮捕された経過は大報道されました。
この『薬物依存症』は、覚醒剤での逮捕から4年後、執行猶予の満了を迎える頃に清原さんが語った、薬物依存やうつ病との戦い、息子さんたちとの再会などが綴られています。
衝撃の逮捕の裏にはどのような事情があったのか、どういう状況だったのか。
逮捕されてから今日に至るまでの軌跡などが、語り下ろしという形態のせいか、カッコをつけているのではい清原さんの率直な気持ちが書かれていたように感じました。
清原さんは、『薬物依存症』の著者・松本俊彦先生の患者さんでもあります。
この本を読んでいていて私がドキッとしたのは、清原さんが普通の人だと致死量の覚醒剤を使用し、仕事にも穴をあけるなど支障がとても出ているのに、それでも、自分では『薬物をコントロールできている』と思っていたというくだりです。
依存症は否認の病と、よくいわれます。
なかなか自分自身が『薬物依存症』と認められないんです。
こんなに使っていて生活にもめっちゃ支障が出ているのに、まだコントロールできていると考えていたとは、まさに否認の病。
清原さんが赤裸々にその時の状況や感情を語っているので、実感として迫ってきます。
そして、回復への道は自分を『薬物依存症だ』と受け入れたところから始まります。
清原さんは先生から依存症からの回復をめざす自助グループ『ナルコティクス・アノミマス』(直訳で『匿名の薬物依存症者たち』)の冊子を渡され、世界中の患者が自分と同じ体験をしていることに衝撃を受けます。
そこから徐々に自分の弱さを認め、依存症であることを受け入れていきます。
清原さんの声、それはすなわち薬物依存症で苦しむ人の声でもあります。
薬物依存症に苦しむ人のリアルが描かれていると思います。
インタビュー調でささっと読めるので図書館等にある本でも目を通してみると、苦しむ当事者の思いや事情の一端がわかると思います。
『僕が違法薬物で逮捕されNHKをクビになった話』塚本堅一
清原さんほどの知名度ではないですが、著者の塚本さんは元NHKのアナウンサー。
私は関西在住なので、観ていないのですが、2016年の逮捕当時はNHK東京アナウンス室で勤務し、『ニュース シブ5時』のリポーターをされていたそう。
『ギャンブル依存症を考える会』の田中紀子さんのご紹介で、松本先生の診察を受けることになったそうです。
塚本さんは清原さんのような覚醒剤ではなく、危険ドラッグ(ラッシュ)で逮捕されています。
NHKのアナウンサーという世間的に羨まれる仕事を持ちながら、なぜ、そんなヤバイ薬物を使うような危ない橋を渡ったのか。
この本を読むと、そのあたりがよく分かります。
逮捕のきっかけとなった薬物はネットで購入し、郵送で自宅に送られてきたものだったのでした。
こうしたサイトにありがちですが『合法』と書かれていて、値段もバリバリ違法なものよりも安く、『ヤバイかも、でも、大丈夫だっていうし』というような、購入者が『黒ではなくグレーと思いたい』というようなところを突いた販売方法だったんですね。
塚本さんは自分がドラッグに手を出した理由について、『ありふれた原因かもしれませんが、ストレスとうまく付き合うことができませんでした』と書いています。
そして、一日の終わりにストレスを和らげるためのご褒美スイーツをコンビニで買う感覚で、怪しいサイトからドラッグを購入してしまいます。
エリートサラリーマンで起こることは、多くの人に起こる可能性のあることではないでしょうか。
逮捕勾留され、罰金50万円となり、その後、仕事を失ったことや社会的孤立状態でうつに悩まされながら、依存症回復施設に通院します。
塚本さんの場合、依存症との診断はなかったのですが、回復施設への通院が社会復帰に役立つとのことで通うことになったんです。
前述の高知さん、清原さんとも重なるような経過ですが、異なるのは懲戒解雇とはじめとした所属会社とのからみがあるところ。
自宅で逮捕されたときの様子や、そのまま勾留され、保釈された後の様子なども詳しく描かれています。
会社(NHK)に対して始末書を書いたり、会議室のようなところに行って偉い人から懲戒解雇の処分を言い渡され、職員証やIDカードなどを返却して荷物を持って帰るといった流れが丁寧に描写されており、『ああ、会社員で逮捕されて懲戒処分を受けたらこうなるんだ』と、同じ勤め人としてせつなくなりました。
薬物使用の実際はもとより、サラリーマンが逮捕されたらどうなるか、知っているようで知らないところも書かれている興味深い本です。
回復にむけて
このコーナーでは、依存症者ご本人やそのご家族、支援者が回復に向けて活用できる本をご紹介します。
薬物離脱ワークブック
薬物は『やめるのは簡単だが、やめ続けるのは難しい』とよくいわれます。
薬物をお酒やタバコに置き換えてみると、分かりやすいのではないでしょうか。
このワークプックは、その『やめ続ける』のを助けるための一つのツールです。
第1部では、薬物を中心に据え、薬物を使うことの弊害ややめ続けていくにはどうしたらいいか、について扱われています。
第2部では、薬物に頼らず社会適応していく方法について考えていくようになっています。
けっこう分厚くて、ちゃんとやれるか不安になるんですが、第1部からでも第2部からでも、また交互に読み進めてもヒントが得られるようになっているので、気になったところから始めて大丈夫です。
認知行動療法で扱う頭に自然に浮かんでくる考えだけでなく、より深いレベルに働きかけるスキーマ療法のエッセンスも併せて取り入れられています。
字の間隔がゆったりしていて、適度にイラストもあり、私的には使いやすいです。
薬物・アルコール依存症からの回復支援ワークブック
著者は、先ほどからよく出てくる松本俊彦先生、小林桜児先生、今井扶美先生です。
この先生方が中心となって、試行錯誤を繰り返しながら作り上げられてきた薬物依存症のプログラムを、アルコール依存症にも対応できるように加筆されたワークブックです。
スタンダードな内容で、具体的な内容も多く使いやすいです。
こちらも全部読み切らなくても大丈夫。
できるところからとりかかりましょう。
アルコール・薬物・ギャンブルで悩む家族のための7つの対処法【CRAFT】
依存症の人のご家族のための自習用ワークブックです。
著者は、アルコール依存症の治療をはじめ、依存症の治療を長年していらっしゃる精神科医の吉田精次先生 +ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)。
CRAFT(Community Reinforcement And Family Trainig=コミュニティ強化と家族トレーニング)は、アメリカで開発されたアルコール・薬物依存者と家族のためのプログラムです。
このテキストはご家族の自習用で、薄めでコンパクトなサイズだし、ワークもコンパクトにまとまっている(↓)ので、とりかかりやすいです。
家族などの依存症者の周囲にいる人が自らのコミュニケーションを変えることで、対立を招かずに治療へつなげていこう。
そうしたテキストです。
依存症のご本人は、治療したくないという人がとにかく多いんです。
そんな本人を、近くにいて一番影響力のある家族がやる気にさせるコミニュケーション方法を具体的に教えてくれます。
ご家族がCRAFTに取り組まれることで、医療機関への受診を拒んでいたご本人が受診するようになったり、ご家族自身の精神的負担が減ったりと、明るい変化があるかも♪sそのヒントがたくさんです♪
気軽に手に取っていただきたいです。
より詳しくCRAFTについて知りたい方は、こちら(↓)をどうぞ。
翻訳書なので、事例がみんな横文字名前の人です(笑)
依存症家族を支えるQ&A
著者の西川京子さんは、精神保健福祉士&社会福祉士として、関西の保健所の相談員や精神科のソーシャルワカーなどをされていました。
この本はアルコールや薬物、ギャンブルなどの依存症者のご家族のための本です。
依存症とはどんな病気ですか?
なぜ家族は、依存症の回復に取り組まなければいけないのでしょうか?
といった、ご家族のよくある22の質問に答える形式になっています。
『家族からのメッセージ』としてご家族の手記も掲載されています。
薄くて読みやすい本です。解説も平易に書かれていますので、ぜひ、読んでみてください。
おわりに
違法薬物自体は遠ざけるべきですが、薬物依存症の人は『ダメ、ぜったい』と遠ざけていては、当事者や関係者、リスクが高い人たちを孤立させるばかりで良いことはないでしょう。
将来、アルコールや薬物、ギャンブルに依存するリスクが高い子供たちの中には、すでに親や身近な大人がそういった依存に関する問題を抱えていることが少なくありません。
身近にいるであろう、依存の問題を抱えた人とどう接するか、自分自身が何かに依存しないようにするにはどうするか、はたまた、うちの中1の娘への予防教育をどうするか、悩みは尽きないですが、徐々に勉強していき、その成果(?)をこのページに反映していこうと思っています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました^_^