『年金分割』という制度、ご存じですか?
言葉は知っていても、具体的には意外と知らない場合が多いんじゃないでしょうか。
年金分割は、離婚した場合、2人の婚姻期間中の厚生年金を分割して、それぞれ自分の年金とすることができる制度です。
制度が施行された2008年4月頃は話題になり、報道などで目にする機会も多かったのですが、期待したほど年金が増えないということもあってか、最近はとんと話題になりません。
でも、制度を知らなかったり、離婚後2年の請求期限を過ぎてしまったら、損することもあります。
今回は、実際に年金分割を請求をした身として、年金分割の概要や注意点についてお伝えします。
離婚したり、離婚を考えている方はもちろん、夫婦円満を謳歌している方も、『こんなのあるんや~』と思っていただければ幸いです♡
*家庭裁判所にあるパンフレット
年金分割とは
聞いたことはあるけど、意外と具体的に知らないのが年金分割。
私も離婚が現実的になってから、慌てて調べました。
『年金分割』という文言からすると、専業主婦(夫)をしていて離婚しても、働いていた方の配偶者の『年金が半分もらえる』と思いがちです。
でも、そんなに単純なものではありません。
例えば、会社員だった夫の年金が、65歳以降に月20万円もらえるの予定だとすると、働いてなかった妻が年金分割を請求すると、その半分の10万円もらえる、とかには単純にならないんです。
分割の対象になるのは、厚生年金にあたる部分のみ。
しかも、分割対象の期間は婚姻中に限られています。
例えば、会社員の夫と30歳の時に結婚し、妻は専業主婦となり(最近、あまり専業主婦はいませんが💧)、夫が55歳の時に離婚したとします。
この場合、30歳から55歳の時に夫が納めた保険料から得られる厚生年金のみ対象です。
結婚の前や後は関係なく、基礎年金(MAXで月額約6万5千円)は分割の対象外です。
また、自営業者など国民年金しか加入していない人では、年金分割はありません。
*広瀬めぐみ監修『離婚の準備と手続きがわかる本』から
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/kyotsu/rikon/20140421-04.html
合意分割と3号分割の2種類あるよ
さらに話をややこしくしているのが、年金分割には2種類あるということ。
合意分割と3号分割です。
合意分割
平成19年4月1日以後に離婚をした場合において、当事者の合意や裁判手続きにより分割割合を定めたときに、当事者の一方からの年金分割の請求によって分割する制度です。
話し合いで合意できる場合がほとんどらしいですが、『調停』や『裁判』を利用して決定することもあります。
実は私も後者の方になっちゃいまして、家庭裁判所のお世話になりました(--;)
ちなみに分割する割合のことを、按分割合と呼び、年金を分割する際の按分割合は最大で50%です。
ちなみに私が持っている自分の書類(割合が決まる前の書類)には、按分割合の範囲として『46.787%を超え50%以下』と書かれていました。
請求するほうが脅されるなどして、不当に割合が低い状態で合意させられないようにする一方、請求するほうが、される方より多くもらうというのはダメというわけですね。
3号分割
こちらは、平成20年4月1日以降の第3号被保険者(会社員等に扶養されている配偶者) が離婚をした場合に、扶養されていた配偶者の方からの年金分割請求によって、扶養していた方の厚生年金を2分の1に分割する制度です。
合意もへったくれもなく、扶養されていた方からの請求で、有無をいわせず2分の1です。
注意が必要なのは、平成10年から扶養されていても、合意なしでOKの3号分割の対象になるのは、平成20年4月1日以降の婚姻期間のみということ。
それ以前の部分は合意分割の対象になります。
扶養していた方からすれば、有無をいわせず厚生年金部分の半分をもっていかれるわけで、怖いですね。
合意分割と3号分割の関係
合意分割の対象期間に3号分割の対象となる期間が含まれているときは、合意分割を請求した時点で3号分割の請求があったものとみなされます。
結婚してから共働きで→一時期扶養に入り→また共働きという場合
この場合は、合意分割対象部分と、3合分割対象部分(平成20年4月1日以降に扶養に入っていた期間)があるのですが、合意分割を請求すれば、扶養の期間の分割も一緒に分割の手続きが進みます。
一方、平成20年4月以降に結婚して、最初から扶養に入っていた場合、MAXの50%を機械的にもらえる3号分割の部分しかありません。
相手に伝えてから、請求する方がトラブルが少なくていいと思いますが、伝えられない事情がある場合は(DV被害者で相手が怖いとか)、自分一人で、ささっと請求できます。
また、合意分割の対象と3号分割の対象と、両方あった場合でも、3号のみの分割請求も可能です。
年金分割5つの注意点
実際に年金分割をしてみた私が振り返り、これからする人は、ここを注意しておいてね!という点を書きます。
注意その①請求期限は原則離婚後2年!
原則として、離婚等をした日の翌日から起算して、2年を経過すると請求できません。
『原則』というからには『特例』もあります。
離婚から2年を経過するまでに裁判所に審判の申し立てを行って、本来の請求期限(離婚後2年)を経過後、審判が確定した場合などなどですが、いずれにしても、離婚等をした日の翌日から起算して2年以内に何らかのアクションを起こしてなくちゃいけません。
離婚後2年なんて、生活に追われてほんとあっという間なんですよ。
これを逃したらもう分割請求はできないので、早め早めに動くことが大事!
注意その②分けられるのは厚生年金部分だけ!
しつこいようですが、分割対象になる部分はかなり限られています。
厚生年金部分、しかも婚姻期間中だけです!
そのため、意外と金額が少ないんですよね。
東洋経済ONLINEに載っていた社会保険労務士・井戸美枝さんがあげていた例だと
婚姻期間が25年、その期間の平均報酬月額が36万円だった場合、婚姻期間分の厚生年金は年間76万9500円。
分割で妻が受け取れる年金(注:夫が働いていた設定)は年額約36万円、月額3万円強です。
妻自身の年金(国民年金)が約5万円とすると年金収入は月8万円程度で、老後の資金としてはかなり心もとないといえます。
確かにそうです。そして、夫の方も少ない年金から月3万円も減るので、2人とも貧乏に・・・。
熟年離婚が『貧乏一直線になり危険』といわれるゆえんですが、でも、離婚せざるを得ない場合も多いですしね。
そのへん、しゃあないですわ。
注意その③共働きの場合は請求すると損する場合もある
共働きの場合、婚姻期間中の2人の厚生年金を分けることになり、期間中を総合して給料の多かったほうが相手に分ける形になります。
当然ですが、性別は関係なし。
一時期、一方の給料が高かったけど、その後、逆転したり、途中、一方が扶養に入っていた期間があったけど、その後、職場復帰して高給を得ていた場合など、どっちが多いかパッと分からない場合があります。
そうした場合は、『分割しなくてえんやん』となればそれでいいのですが、『もし、ちょっとでも年金が増えるなら、長く続く老後、是非、請求したい』と思った場合、検討するために『年金分割のための情報通知書』を、年金事務所(公務員は共済組合)から取り寄せてみなくちゃ、正確なところは分かりません。
注意その④情報通知書の請求のタイミング
合意分割をするには、この『年金分割のための情報通知書』が、請求するためにどのみち必要です。
離婚後でも、もちろん請求できるのですが、もし、タイミングを選べる状況なら、離婚前の請求がオススメです!
なぜなら、離婚前と離婚後では、情報通知書が年金事務所から送付される先が異なるからです。
★離婚前の請求→請求した側だけに通知
★離婚後の請求→元配偶者と自分の両方に通知
離婚前に請求するメリットは、ずばり『配偶者にばれずに請求できる』ことです。
離婚を視野にいれつつ、でも、離婚するかこのままいくか悩んでいて、将来の生活設計についても考えたい場合、参考として年金がどんな感じになりそうか、知っておくのも大事です。
離婚前だと、自分あてにしか通知が来ないので、波風立たせずに見積もることができます。
といっても、この情報通知書に記されているのは、将来もらえる予定の具体的な年金の額ではなく、あくまで年金の計算のもととなる厚生年金納付記録(標準報酬)なのですが、将来の受給額のあたりがある程度つけられます。
『年金分割のための情報提供請求書』がダウンロードできます(日本年金機構)(↓)
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todokesho/kyotsu/20181011-05.html
注意その⑤年金事務所は予約がとりにくい
そんなこんなで、年金関係はかなり複雑で(少なくとも私にとっては複雑💧)、相談したり、 情報通知書を取り寄せる手続きをするために、年金事務所に窓口に行きたくなると思います。
年金事務所は、自分の住んでいるところに限らず、どこの事務所でも受け付けてくれますが、どこもかしこも混み混みです。
予約をとらずに行っても、予約の人優先なので相手をしてもらえるかわからず、予約をとろうとしても、私がアクセスできる事務所では10日から2週間先の予約枠になっていました。
さらに年金事務所に行って、窓口で指導を仰ぎながら、『情報提供請求書』を書いて『情報通知書』を請求しても、通知書は手元にくるまで1か月程度かかります。
なのでここでも、早め早めの動きが必要です。
私の反省点
年金分割に際しての反省点は、2つあるんです。
一つ目は、離婚前に情報通知書を取り寄せなかったこと。
二つ目は、分割請求をするタイミングがかなり遅く、バタバタしたことです。
私の場合、結婚当初は共働きで、その後、しばらくして専業主婦となり、別居してからまた働き出して、数年たったところで離婚という経過をたどりました。
結婚した当初の共働き期間は、私の方が夫より給料が高く、専業主婦を得て再就職した後は、私の方が大幅に夫より給料が低くなっていました。
最初の共働き期間の給与差はさほどなかったのですが期間は長く、一方、別居後の共働き期間は、夫との給与差は大きかったのですが、離婚までの期間は短かったんです。
専業主婦になったのは、3号分割の制度ができて以降なので、すべて3号分割(有無をいわせず50%・50%で分ける)の対象になります。
この場合、合意分割の対象となる部分の標準報酬合計が、元夫のほうが多いのか、私の方が多いのか分からなかったんですね。
それで、どっちが多いか確認するために情報通知書を取り寄せたかったのですが、離婚後にすると、元夫の方にも通知がいきます。
元夫は年金分割の請求はする気配がなかったので、万が一、私の方が標準報酬額が多かったら、私の方の年金が減らされるので『やぶへびだな』と思ったわけですよ。
何度か年金事務所に行き、窓口でいろいろ年金のシステムを教えてもらい相談した結果、とりあえず3号分割の方だけを請求することにしました。
3号分割の請求は私一人でできるし、絶対に私が得をする部分です。
また、のちのち元夫が合意分割のことを言い出して、私の方が払うことになっても、3号の方と差し引きすると、やっぱり私の方がもらう側になるだろうと思ったので。
3号請求は、情報通知書は不要で、一方的に私が請求してあっさり、標準報酬額が改定されました(私の方が増え、元夫が減った)。
その後、元夫が情報通知書を取り寄せ、私にも通知がきて、それをみると、私の方が合意の部分でも請求したらもらえる状態だったので、請求しました。
そんなこんなでいろいろしているうちに、期限の2年が近づいてきて、慌てて手続きをしたというバタバタでした。
これ(↓)は、日本年金機構のパンフレットに掲載されていた『年金分割までの流れ』の表なのです。けっこう長いチャートなのがお分かりいただけるかと思います。
揉めなかったら、短期間でいくと思うのですが、揉めるとなかなか進まなくて請求の期限もあるし、焦ります(^^;)
とにかく早めに動くべし!
日本年金機構の相談窓口です(↓)
https://www.nenkin.go.jp/section/index.html
おわりに
年金分割をしても、さほど年金は増えないので、しないという人も多いようです。
でも、人生100年なんていわれている昨今、月額にするとわずかでも、増えるのだったらやっぱり年金分割の請求はした方がいいと思っています。
離婚せずに済んだらなによりでしょうが、離婚しようと思っているとき、離婚したときは、性別にかかわらず、損をしないよう制度を知って、着々と権利行使をしていった方がきっと将来は明るいはず!
今回は、ドロドロした内容でしたが、最後までお読みいただきありがとうございました!
*年金に関する記載は少しだけですが、離婚全般について網羅してあり、とても参考になった本です!(↓)