内館牧子さんの本は、西原理恵子さんと同じくらい好きで、何冊も読んでいます♪
お二人の書かれるもののテイストは違いますが、観察眼が鋭くて、たくましくて図太い(ごめんなさい(--;))ところが、とっても素敵と思ってます。
今回読んだのは、そんな内館牧子さんの『今度生まれたら』。
ドキッとするタイトルの小説です。
『終わった人』『すぐ死ぬんだから』に続く、内館さんの人気の『高齢者』シリーズの第3弾です。
前の2作もそうだったのですが、『今度生まれたら』も面白くて2日で読みました♬
主人公と同世代の60代、70代はもちろん、私と同世代のアラフォー、アラフィフ、さらには下の世代も、大笑いしながら、いろいろ考えさせられることが多い本です。
あらすじなど
主人公の夏江(70)が、夫の寝顔をみながら『今度生まれたら、この人とは結婚しない』とつぶやくところから、ストーリーは始まります。
こんな始まりだと、夏江は不満タラタラの愚痴っぽい人かと思ってしまいそうですが、まったくそうではありません。
夏江はこれまで、計算づくで自覚して『可愛い女』を演じ続け、世の中を渡ってきました。
千葉大の理系に進める能力がありながら、あえてお嬢様女子短大に進学し、就職先でエリートサラリーマンの夫をゲットして寿退社。
2人の子どもに恵まれ、フルコースの『満腹した』人生を歩んできています。
『可愛い』外面とは別に、内面はかなりサバサバしていて、頭もよく、辛辣なところもある元気のいい人です。
その苦労してゲットした夫は、在職中はエリートサラリーマンでしたが、退職後の今は『蟻んこクラブ』というヘボい名前の、歩く会で楽しく余生を過ごしています。
2人の息子は独立して、別々の道を歩んでいる状態。
優秀で自慢の息子たちだけど、やっぱり娘が欲しかったかな。
これまで自分の人生の節目で下してきた選択は、本当にこれでよかったのかな。
進学は? 仕事は? あれでよかった?
別の道があったんじゃないの?
70歳というやり直しのきかない年齢になって、それでも夏江はやりたいことを始めようともがく。
ざくっというと、『今度生まれたら』はそんなストーリーです。
高齢期の危機
人物描写や登場人物のセリフが、めっちゃ面白いのは脚本家の内館さんならでは。
今回も大笑いしつつ、ちょっと涙ぐんだりしつつ読んでいたのですが、読んでいて思ったのは、『これって、まさに高齢期の危機の話』だということ。
*『高齢期の危機』はエリクソン(Erikson,E.)という発達心理学の人が、だいぶ昔にいっていたことです。
年をとってくると、若い頃と比較して、相対的に生きた時間が長く、残された時間が短くなってきます。
そうなると、人は自分のこれまでの人生を振り返り、『自分は価値がある存在だったか』『人生に後悔はないのか』ということを考えるようになります。
そのとき、これまでの人生を否定的にとらえたとしても、『人生をやりすには残された時間はあまりにも少ない』という絶望感に襲われる―――これがエリクソンのいう高齢期の危機です。
主人公の夏江も
『年齢なんて関係ない。男も女も何かをやろうと思った時が一番若い』などとほざく人がいる。私も忖度して同意しているが、腹の中では『なら、テコンドーやれるか、ボルダリングやれるか』とせせら笑って
おり、やっぱり年齢は関係あることを痛切に感じています。
エリクソンは、そうした高齢期の発達課題は、たとえ絶望感に直面したとしても、これまでの人生で辛かったことや悲しかったことも含めて、自分の人生を受け入れ、さらには誰もが避けることができない死を受け入れていくという自己統合感だといいます。
エリクソンによると、絶望感を克服して自己統合感を得たものには、『英知』という徳が現れるとも考えているのですが、これがどう考えても難しいんですよね (*_*;
衰えを受け入れ選択していく
年齢を重ねてくると、社会的・経済的地位や、親しい人、自分の可能性など、さまざまな失うものが出てきます。
いろいろなものを失うことで感じる喪失感、さらには絶望感といいた負の感情にうまく対処し、今の自分の状態で環境に適応していくことが、エリクソンのいう『これまでの自分の人生を受け入れ、死をも受け入れる』ことにつながっていく気がします。
そんな衰えていく身体や能力、変わっていく人間関係や周囲の環境に適応し、受け入れていくためのヒントになりうるのが、『補償を伴う選択的な最適化』(by ポール・バルテス)という考え方です。
これまで身につけてきた能力は保ったまま、低下していく能力への対処方法を考えていくことですが、その好例として挙げられるのが、95歳で亡くなった世界的なピアニスト、ル―ビンシュタインです。
80歳でもなお驚異的な演奏活動をしていたル―ビンシュタインは、その秘訣についてインタビューされた際、演奏レパートリーを減らし(=選択)、そのレパートリーだけを徹底して練習し(=最適化)、テンポの速いフレーズはゆっくり弾いてテクニックが衰えていない印象を与える(=補償)ことだと答えたといいます。
これですよ、これ!
加齢による心身の変化を受け入れ、自分のできることに注力するということで、そこそこ高いレベルで社会との接点を持ちながら、生活していく。
これができたら、幸福感が高い生活を送ることができるのではないかと思っています。
『今度生まれたら』の夏江も、途中、方向性を見失って迷走しつつも、もともと得意で天賦の才能があった『園芸』に注力することを決めます。
ガチに働くことを目指すのではなく、かといって自宅の庭いじりにとどまらず、ボランティア的な関わり方で外に向かって出ていきます。
きっと、そういうのが、幸福度が高い『サクセスフル・エイジング』なんでしょうね。
『今度生まれたら』を読んでそう思いました。
\主人公の夏江は園芸が得意♡/
おわりに
今回の感想は、サクセスフル・エイジング的なことを中心に書きましたが、『今度生まれたら』には、その他にも『人生のターニングポイントでの選択』などなど、気になる話題が満載です♬
夏江とは反対路線を歩んできた、バリキャリ女子(70歳)の高梨弁護士が、『時代の風潮に合わせすぎるな。それらはすぐに変わるんです。』というのも、わたしには刺さりました。
うんうん、そうよね。
実体験としてそう思ったことがあるんです。
高校で進路を決めるとき、関西から東京の大学に行きたいという私に対して、親や親戚や、父の会社の同僚などは、『10代で一人暮らしをしたら、結婚できなくなる』『就職できなくなる』等といって反対したのですが(昭和初期の話ではありません(笑))、反対を振り切って東京に行きました。
そしたら、東京方面では、そうした風潮はさほど強くはなく、さらに私が大学を卒業するころには、関西方面でもそうした風潮はかなり薄くなっていて、普通に就職も結婚もできました(笑)。
大学時代、楽しかったな~。
とまあこんな感じで、『今度生まれたら』にはいろんなテーマが出てきます。
テンポよく話が進むので、笑いながら読んでいるうちに、何かしら刺さるところがある人が多いのではないかと思う、おススメ本です♬
長々と書いてしまいましたが、最後までお読みいただき、ありがとうございました!
See You!